郵政民営化で“巨大なブラック企業”が爆誕!内部では「局長会」なる組織が睨みを効かせ…問題点を記者が解説
『ブラック郵便局』著者・宮崎拓朗氏インタビュー
■参院選では60万票!政治にも食い込む「局長会」とは
——局長会についてもう少し詳しく教えてください。
宮崎 全国に約1万9000局ある、窓口業務を担う小規模な局の局長たちが所属する任意団体です。局長たちは地元のボランティア活動などにも参加しながら、住民と信頼関係を構築してきました。局長会が自民党公認を得て擁立した候補は、2019年の参院選では60万票を獲得するほどの組織力を持っています。
参議院議員選挙の全国比例は集めた票の総数で政党ごとの議席配分が決まります。これだけ多くの票を集める組織は政党にとってありがたい存在です。局長会は自民党に働きかけることで、自分たちが追い求める政策を実現してきました。
局長になるためには日本郵便が実施する試験に合格する必要がありますが、その試験の前にも、慣例として局長会による事前選考や研修会が実施されます。この場で、局長を志望する局員が「局長になったら、奥さんも選挙を手伝えるのか」などと迫られ、選挙活動や局長会の言いなりになるのがイヤで局長になるのを諦めたケースもありました。局長になれば、半ば強制的に局長会へ入会させられ、ほぼ全員が所属しています。
こうした仕組みで就任した局長にとって、局長会の指示は絶対です。局長会は、約1万9千人の局長たちに集票ノルマを課して選挙活動に力を入れ、それによって手に入れた政治力を背景に会社側への睨みもきかせているのです。
——郵便局の数を維持するためにブラック企業化するのは本末転倒だと思います。
宮崎 おっしゃる通りです。
もちろん、局長会の主張も全て否定できるわけではありません。例えば、他の金融機関の支店が全くないような地域に郵便局があれば、そこで暮らす人々にとってはありがたいことです。
もし郵便局が統廃合されたら困る人が出てくるかもしれない。だから「自分たちは困る人が出ないように活動しているのだ」という主張もわからなくはありません。
問題なのは、地域にとってどれだけ郵便局が必要とされているのか、今の郵便局の数が本当に妥当なのか、といったことが検証されないまま「郵便局の数を維持する」ことが前提になっていることではないかと思います。
郵便局では現在、住民票の写しの発行など、役所の手続きを代行するサービスに力を入れています。公的なサービスを担うことで「郵便局は全国各地に必要なのだ」とアピールする狙いがあるのかもしれません。こうした流れの中で、局長会は、郵便局網を維持するために国が財政支援をする法改正を自民党に要望しています。
——『ブラック郵便局』にも書いてあったような公選法違反ギリギリの選挙活動をしたり、日本郵便の経費で購入したカレンダーを集票活動に使ったりするのはどうかと思います。
宮崎 主張の是非はさておき、不正な活動を行うべきではないのは当然のことです。しかし、問題が発覚しても、会社側は局長会の政治力を恐れてか、厳しい処分をしなかったり、見て見ぬふりをしてきました。
郵政グループは局長会に配慮し、民営化してから現在まで、郵便局の統廃合についてもタブー視し、議論すらしてきませんでした。それによって歪みが生じているのは間違いないと思います。